秋田地方裁判所大曲支部 事件番号不詳 判決
主文
被告人高橋子之吉を懲役六月に処する。
但し本裁判確定の日から二年間右刑の執行を猶予する。
訴訟費用中証人大石蔵雄、加賀谷弘蔵、野呂貞敏、鈴木慶司、鈴木礼二、渡辺昭一に支給した分は被告人高橋子之吉の負担とする。
被告人伊藤長太郎、同佐川亀治、同鈴木源之助、同竹内幸治、同六郷順一、同田口慶助、同池田左武郎、同安倍勉、同川和田弥一、同木村郁郎、同佐藤武夫はいづれも無罪。
被告人高橋子之吉の各入札妨害の点は無罪。
理由
(罪となるべき事実)
被告人高橋子之吉は昭和二十五年一月二十五日施行された仙北郡神代村村役場における同村村立神代中学校校舎建築工事の公入札に際し、当日入札の為来集した、被告人伊藤長太郎外二十数名と該工事を株式会社堀井組に落札せしめることを談合したところ同郡角館町七福産業株式会社取締役鈴木慶司が右談合の事実を知らず協定入札価格以下の金二百三十万円に入札したため、同会社が最低価格入札者として工事の契約者と決定するや談合した業者等は右鈴木慶司を談合破りとして憤慨し、役場二階控室において「土建の風上におけない奴だ。延ばしてしまえ」等罵り談合の斡旋をした被告人高橋は「堀井組が取ることに決つていたのだ、棄権して二番札の堀井組に譲れ、あの雰囲気がわからないのかこの三十何人の人をどうしてくれるただではすまない」とどなりつけ鈴木慶司をして村長藤川得三に入札の取消を交渉せしめたが、同村長から拒否せられるや更に、二階で鈴木慶司に対し「この騒ぎを何とする、十五万円出せ」と要求しその要求に応ぜねばいかなる危害を受けるやも知れずと勢を示し因つてその場で同人から業者に対する分配金として現金十万円を交付せしめてこれを喝取したものである。
(証拠)(省略)
(適用法令)
刑法第二百四十九条第一項第二十五条刑事訴訟法第百八十一条第一項、本件公訴事実中被告人伊藤長太郎、同佐川亀治、同高橋子之吉、同竹内幸治、同六郷順一、同田口慶助、同池田左武郎、同安倍勉、同川和田弥一、同木村郁郎、同佐藤武夫等が昭和二十五年一月十四日施行の仙北郡生保内村村立生保内中学校校舎建築工事公入札に際し、公正な価格を害し、且つ不正の利益を得る目的を以て同村役場及び同村高橋タマヱ方で被告人伊藤長太郎を該工事の落札者とすべく同人以外の業者は金三百八十万円以上に入札しその代り談合金十七万円を被告人伊藤から提供する旨の談合をなした点及び被告人伊藤長太郎、同佐川亀治、同鈴木源之助、同高橋子之吉、同竹内幸治、同六郷順一、同池田左武郎、同田口慶助、同川和田弥一、同木村郁郎等が同年一月二十五日施行の同郡神代村村立神代中学校校舎建築工事公入札に際し公正な価格を害し且つ不正の利益を得る目的を以て、同村役場で株式会社堀井組を該工事の落札者とすべく他の業者はいづれも金二百五十万円以上の入札をしその代り堀井組から談合金十五万円を提供する旨の談合をなした点について検討するに被告人田口慶助が神代中学校の入札の談合に参加したこと並に、各被告人が公正な価格を害し且つ、不正の利益を得る目的を以て右談合をしたことの二点以外は各被告人に対する検察官作成の供述調書によりこれを認め得られる、然し田口慶助が神代中学校の工事について、談合に参加したことの証拠はないので同人に対するこの点は無罪である。
公入札妨害罪における、公正な価格とは公正な自由競争によりて形成せられるべき落札価格と解すべきであるから、被告人等が談合なかりせば入札したるべき価格が談合による落札協定者の入札価格より少額である場合はその差額丈けは入札施行者の損害となりその結果公正な価格を害することとなるものである、今本件について判断するに、生保内中学校の入札においては談合の結果の落札予定者である被告人伊藤長太郎の入札協定額は金三百八十万円以下であつたこと、神代中学校の入札においては談合の結果落札予定者堀井組の入札協定額は金二百四十万円以下であつたことはいづれも被告人伊藤長太郎に対する検察官作成の供述調書により認められるところであるが、被告人伊藤長太郎、同佐川亀治、同鈴木源之助、同竹内幸治、同安倍勉、同川和田弥一が談合なかりせば右認定の落札協定額以下で入札する考えであつことを認める証拠はなく被告人木村郁郎が生保内中学校の入札の際に又、被告人高橋子之吉、同六郷順一、同池田左武郎が神代中学校の入札の際にそれぞれ前記認定の落札協定額以下で入札する考であつたことを認める証拠もないただ生保内中学校については、被告人高橋子之吉は落札協定額三百八十万円以下の金三百二十九万円、六郷順一が金三百二十万円、田口慶助が金三百七万八千円、池田左武郎が金三百十四万二千八百円、佐藤武夫が金三百五十万円と見積つていたこと、被告人木村郁郎が神代中学校について、落札協定額二百四十万円以下の金二百二十万円に見積つていたことは右各被告人に対する検察官作成の供述調書(田口慶助のみは司法警察員作成の供述調書)により明かであるが生保内中学校の際は被告人伊藤長太郎が地元請負人としての面目上該工事の契約者たらんことを熱望し、他の業者もその熱望に負けて、同人に譲歩したものであり、神代中学校の際は被告人木村郁郎は年令も若く他所から来たものでもあるので、堀井組に譲れとの高橋子之吉等の斡旋を拒絶する勇気なく、談合に応じたものであることが右各被告人に対する検察官作成の各供述調書により看取でき特に各自己の見積価格以上の価格で工事を落札させるために談合したもの換言すれば公正な価格を害する目的を以て、談合したことを肯定できる証拠はない。又各被告人が不正な利益を得る目的で談合したとの証明もない。
次に公訴事実中鈴木源之助が高橋子之吉と同時に判示事実の恐喝をなしたとの点について按ずるにこの点は鈴木慶司に対する検察官の供述調書によれば被告人鈴木慶司に入札取消を要求し、同人と共に村長にその交渉に行つたことは肯定できるが、同人を恐喝したことの証拠はない。
よつていづれも犯罪の証明十分でないものとして、刑事訴訟法第三百三十五条後段により被告人高橋子之吉を除く全被告人と被告人高橋子之吉に対する各公入札妨害の点についてそれぞれ無罪の言渡をなすものとする。(昭和二七年四月一二日秋田地方裁判所大曲支部)